SI業界の改革には責任者に対するショック療法が有効かもしれない

私の直属の上司ではないのですが、会社の大先輩がインドに1ヶ月程滞在し、現地のSIerの開発現場を視察してきました。現地での研修を提供している会社は、あのデータさんの子会社になっているみたいです。
http://www.vertexsoft.co.jp/services/learning-in-india.html
そこで、実際にインドのプログラマーアジャイルプロセスを使って開発をしている現場を目の当たりにし、いい意味ですっかり洗脳されて帰っておいでになりました。

  • 1週間ごとに追加機能をリリース
  • スタンドアップミーティングによるタスクの割り当て
  • 徹底的に自動化された進捗管理*1
  • 徹底的に自動化されたテスト
  • きわめて計画的で少ない残業時間
  • プログラマーの地位の高さと優秀さ

やはり、百聞は一見に如かずといいますが、日本のSI業界の開発手法が20年も遅れていると言われても、何十年も開発の現場から遠ざかっているとなかなか実感がわかないものですが、現地で一ヶ月も過ごすと相当意識が変わるようですね。それで、その年配の先輩社員は「一週間のイテレーションアジャイルを」などと、早速周りに宣伝して廻っているみたいです。
インドにおけるアジャイル開発については、以前にインドと日本におけるプログラマーの社会的地位の違い - 達人プログラマーを目指してでも書いているのですが、さすがにSIer大国だけあって、日本とはいろいろと違う状況にあるみたいですね。実際、想像以上にガラパゴス化した日本のIT業界? - 達人プログラマーを目指してで示した結果を見ても分かるのですが、インドはJava EEなどエンタープライズ開発の世界的な中心になっています。
ちなみに、インド人の平均年収は世界各国の平均年収を参考にすると35万円(日本人より一桁少ない)くらいなのに対して、プログラマーの年収は以下によると平均で(最大ではない)200万円程だそうです。*2
大手SIer(インド)の収益向上がとどまることを知らない件 - Thoughts and Notes from NC
もちろん先進国とはエンゲル係数などが全然違うのでしょうけれど、単純計算すると平均の6倍も給料をもらっているということであり、日本人の感覚からすると年収2000万円以上のセレブということになるのでしょう。インドにおけるプログラマーの社会的地位は医者以上という話も実際にインド人の方から聞いたことがあるのですが、年収の格差を考えれば十分に納得のいくものです。当然、そのような社会でプログラマーになれるインド人は専門の一流大学でコンピュータ科学を学んだような超エリート達なのであり、日本で言えば東大の理学部情報学科を卒業したような人たち*3SIerプログラマーとして働いているというちょっと信じられない状況になっているわけです。当然英語や数学もできて、オブジェクト指向や先進の開発ツールを活用しながらプログラミングしているというわけなのでしょう。
ちなみに、その先輩社員から聞いた話によると、インドの社員食堂のカレーライスは80円だったそうです。エリートの会社の食堂ですから、インドの一般庶民の感覚からすればこれでもかなり高いそうですが、日本における値段の10分の1くらいしかしないのですね。
そういった状況を考えて、コスト的にも人材的にも、インドは非常に有利な立場にあるわけで、日本と違ってSIerが高い収益を上げて成功しているという事実は仕方が無いことなのかもしれません。そういうところで日本のSIerがインドのSIerと同じ土俵で真っ向勝負してかなうはずもありません。しかも、単に人月辺りのコストの違いだけでなく、自動化などによる開発の効率化といったものの違いにより、日本とインドの金額辺りの生産性の差はさらに大きなものになっているのではないでしょうか。まずは、彼らの先進的な取り組みについて謙虚に学びながらも、今後我々としてはどういう方向に改革していくかといったことを考える必要があります。今のところインドより経済的には遥かに裕福で恵まれているのですから、お金や人材をもっと良い方向で正しく使う道もあるのではと思いますね。
明治維新で活躍した人物の一人である岩倉具視はちょんまげと着物でアメリカを訪問したという話は以下の写真で有名です。
ファイル:Iwakura mission.jpg - Wikipedia
しかし、当時のアメリカの進んだ文明に触れカルチャーショックを受け、以後大きく考え方を改めて鉄道の建設をはじめとして文明開化の推進者となったとのことです。

この旅の中で岩倉は各国で激しいカルチャーショックを受けた。アメリカの近代国家ぶりは岩倉の想像をはるかに超えており、よほど衝撃的だったようで三条に宛てた書状にも「殷富を進むるにおいて意想の外を出るに驚嘆」とまで称している。さらにその原因は鉄道にあるとし、日本の繁栄も鉄道にかかっており日本の東西を結ぶ鉄道の設置が急務とする。岩倉が帰国後日本鉄道会社の設立に積極的に携わったのもそのためである。またイギリスでは日本では考えられない工業技術に圧倒された。もはや条約改正どころではなく使節団は各国への留学が主要目的となった。
ちなみに、岩倉はこれまで髷は日本人の魂であると考え、落とすことを拒んでいた。そのため訪米時も髷と和服姿であったが、アメリカに留学していた子の岩倉具定らに説得され、シカゴで断髪している。

SI業界の意識改革を推進させるためにも、情シスやSIerの重鎮は、日本に留まって古いやり方を続けているのではなく、積極的に海外の進んだ状況を視察し、一度カルチャーショックを受けてくるのがよいのではと思ってしまいました。

*1:会議と線表ではなく、ツールを使って進捗を数値化した上で管理している。RallyVersionOneというツールを使って管理しているらしい。

*2:最近インドのプログラマーの人件費は上がっていると言われるけれど、確かにこの水準だと日本人プログラマーに比べて桁違いに安いわけではないですね。

*3:普通彼らはGoogleか海外に行くのかな。