日本では職業上専門家たるプログラマーという地位が確立されていない?

ずっと前に読んだことがあるのですが、

金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント

金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント

という本でキャッシュフロークワドラントという考え方が説明されています。
金持ち父さんのキャッシュフローゲームの目的とは? ~ロバート・キヨサキのゲームの価値を解き明かす~ | 金持ち父さん研究室
http://hibridge.info/2007/27.html
その考え方では、4つのクワドラントは

  • E(Employee):従業員
  • S(Small business, Specialist):自営業者、専門家
  • B(Business owner):ビジネスオーナー
  • I(Investor):投資家

のように定義されています。世の中が成り立つためにはどのクワドラントの仕事も欠かすことができませんし、価値観も人それぞれでよいと思いますが、金持ち父さんの考え方として、経済的自由を手に入れるためには右側のクワドラントであるBやIに移行することを勧めているようです。
この金持ち父さんの考え方に、私が再び興味を持ったのはプログラマーがはたしてどのクワドラントに属しているのかという点を考えたからなのですが、日本(特にSI業界?)と海外とでは考え方に大きな違いがあるように思います。
もちろん例外はあるにせよ*1、日本の大多数のプログラマーはサラリーマンなのであり、当然のようにEクワドラントに属するものと考えられています。つまり、お金のためにプログラムを書くという人が大多数なのであり、会社の側でもプログラマーに専門性や特別なスキルを求めません。対照的に、アメリカやインドなどエンジニアの地位が高いとされている国では多くのプログラマーがSクワドラントに属して仕事をしているのではないかと考えられます。つまり、弁護士や医者と同じ領域で専門性を発揮して仕事をしているということですね。もちろん、S領域では自分でお金を稼がなくてはならない点はEと変わりませんし大金持ちにはなれませんが、自分の持っている知識や技術を発揮して社会に役立てることもできますし、スキルがあればそれなりに高い収入と地位を得ることができる領域であると思います。なによりも、S領域は自分にしかできない仕事というこだわりを持って仕事ができる領域であり、お金儲けという点に最大の価値をおかないのであれば、私としては魅力的なクワドラントのように思われます。
ところで、最近ネット上では
2010-12-24
SI業界からはさっさと抜けだしたほうがいい - yvsu pron. yas
などで

だから、エンジニアはマーケティングを学べ!!

もっといえば、プログラマも良いコードを書いていればいいという時代は終わった。これからは、プログラムをいかに金に変えるかどうかをプログラマが真剣に考える時代です。

新しいビジネスを考えることのできるプログラマを時代は欲しているのです。

ということが盛んに言われるようになっていますが、これらはプログラマーに対してEからBへの移行を提唱していると考えることができます。プログラマーとして勝ち組になるには自分でお金儲けのためのビジネスを立ち上げようということでしょうか?
本当に技術もビジネスセンスもある万能の人はすばらしいと憧れを持つ反面、考え方がアスペルガータイプの私にはどうしてもそういう幅広い考え方ができずに正直なところ悩んでしまうところがあります。私が面白いと思える思考回路に素直に従って仕事をすると、ある時間軸で区切って見た場合、非常に狭い範囲にしか関心が向かないということがあり、実際、SpringのAPIをいかに賢く拡張するかといったことを寝てもさめても考えているといった状態がしばらく続きます。それが、アスペの限界なのでしょうけれど、どうしても細かいことにこだわってしまうところがあります。ビジネスやマーケティングのことと設計のことをパラレルで考えることができないのですね。それで、マーケティングの勉強をするくらいなら、新しいAPIや言語をin Actionシリーズでも読んで勉強した方が楽しいと思えてしまいます。
ただ、私に限らず、多くのプログラマーはアスペタイプで、幅広い思考よりも、狭い領域を徹底的に研究するというのが得意なのではとも考えます。こういうタイプの人でも自分自身でビジネスを考えられなくても、ビジネス思考のできる人と協業することで良い仕事をすることは可能なのではないかと思います。実際、シリコンバレーではギークやナードと呼ばれる人たちがそれなりに高い収入を得て良い職場環境で仕事をしているようにも思えます。
なお、日本ではプログラマーはEかBでSが欠落していると書きましたが、この点はプログラマ - Wikipediaの説明の最後の部分によく表れていると思います。つまり、この分類ではプログラマーを資本家と労働者に分けていますが、そこでは専門家という分類はありません。

資本家たるプログラマ
資本家の出身としてそれまでに培われた資産や大手一流企業を中心とした強固な人脈をその太いパイプを如何なく活用し、時として技術経営の経営者として起業しメディアの中でカリスマ的位置づけを獲得し、その活躍ぶりが世間に強烈な印象を植え付ける。しかし概ねコンピュータ技術のトレンドに対する理解は深いが、技術者の価値としては程遠く、経営者でしか無い人物がシリコンバレーの巨人とその存在感を混同してもらう為にプログラマを名乗っているケースが大半である。
労働者たるプログラマ
如何なる職業(例えば、正社員なのか、派遣なのか、請負なのか)に就いた経緯があろうとも、資本家によって頭数の一つとして利用されるがままに生涯を終える。頭数として利用される立場である以上、プログラマ自身のアイデンティティに対する価値は最初から全く期待されておらず、肉体の能力や精神的な意欲の低下が顕著となる30代後半以降の局面を以って職業を継続する事が困難な状況に陥る傾向がある。本来は知的労働者であるべきプログラマが、そのアイデンティティを無視されたままに、年齢や怪我による主に肉体的な能力の低下を理由として簡単に使い捨てられる日本の常識的な産業構造を揶揄する意味でIT土方という言葉や新3Kという言葉はあまりにも有名であり、一般的な学生(労働者たるプログラマ候補)が、学校を卒業後に就職先として選択肢からこの職業を除外する理由の多くは、このような理由に帰結するものであり学生の判断としては正しいが、逆に言うとその時点で技術に対して賭ける情熱が存在しない事を理由にコンピュータ技術に対して主体的に関わる産業から門前払いを受けていると言っても差し支えない。

私が、日本でも海外のようにSに属する専門家たるプログラマーというのが今後もっと注目されるようになるべきだと思いますし、そのような土台がなければ、Bの領域に発展する付加価値の高いサービスが生み出される土壌も成熟しないのではと思います。実際、Eの領域で夜遅くまで残業し、勉強する時間も新しいサービスを考える時間もないという大多数のプログラマーの全員が、いきなりBを目指すというのは難しいと思います。ITのようにますます高度化し、進歩の速い技術を対象とするのであれば、Sクワドラントを目指すプログラマーも社会の構成員として相当量存在しないと今後業界として成り立たなくなるのではないでしょうか。

*1:フリーランスプログラマーの方もいらっしゃいますが、新しいサービスを作成せず、単に専門知識だけで偽装派遣的な下請けビジネスをしている限りEと変わらないところがある。