日本人にもこのような達人プログラマーがいたのか

プログラマー”まだまだ”現役続行 (技評SE選書)

プログラマー”まだまだ”現役続行 (技評SE選書)

「達人プログラマーを目指して」という本ブログの趣旨からしても、是非紹介させていただきたい本です。日本にもこのような超越的な達人がいたのかと感動して、一気に読んでしまいました。筆者の定義によると筆者自身は「名人」レベルで最終的な「匠」の段階には至っていないようですが。
読後の感想として、この本で結局筆者が伝えたいことは、達人プログラマーとして一生現役でがんばるには、一に勉強、二に勉強が重要ということでしょうか。勉強にはプログラミング言語や計算機科学など技術の勉強ということは当然として、英語力の向上ということも含まれます。プログラマーとして一人前となるためにはTOEICは最低900点必要で、継続して長い時間かけて学習が必要とのことですし、毎朝4時に起きて技術書を勉強するなど、一般的な常識からはかけ離れた、並外れた努力を行ってきたとのことです。筆者のブログはこちら。(柴田 芳樹 (Yoshiki Shibata):So-netブログ
筆者は

プログラミングを楽しみたい。お金や肩書きはそれほど重要じゃない。

と言っていますが、お釈迦様のように地位や名誉、収入には目もくれず自分の知識の向上に努め、また、書籍の執筆や翻訳、勉強会を通して後進の教育を行うという筆者のような生き方は、日本において達人プログラマーとして現役を続ける上で、あるべきモデルの一つなのかと思いました。年収が多い、少ないで勝ち負けを判断する必要はないですから。
ただ、このような生き方は誰もが簡単にまねできるものではないですし、実際私が仕事を一緒にしてきた中で筆者に匹敵するレベルのプログラマーに出会ったことも一度もありません。残念ながらすべての職業プログラマーがこのような道を究めることは現実的でないでしょうし、そういうところは理想と現実とのギャップがあまりにも大きいようにも感じてしまいました。
また、筆者の経歴を見る限り、大手機械メーカーやパッケージベンダーでC++Javaを中心とした開発を行ってきたようです。詳細は不明ですが、SIerやさらにその下請けで、COBOLJava、.NETでエンタープライズシステムの開発を行っている私のような大多数のプログラマーとは労働環境や求められるものが大きく異なるところもあるのではと思いました。エンタープライズ開発では、COBOLJavaEE、.NETなどの開発プラットフォームの上で構築するということもあり、スタイルも実態としてはほとんどの場合労働集約的に行われています。プログラミング言語アルゴリズム、低レベルのOS、ハードウェアの知識よりも

などが相対的により重要になってくると思うのですが。そうすると、結局管理職にならず技術者としてとどまるとしても、SEやアーキテクトにならないとやっていけない(広い意味で技術者としてはやっていけるかもしれませんが)というところはあるのかと思ってしまいました。ある程度の規模のSIerであれば、スペシャリストとかフェローなど形式上管理職以外のキャリアパスを用意しているところも最近は多いようですが、

  • 管理職になれない人のために用意されたポスト
  • SOAOSSクラウドなどビジネスになりそうな最新技術を調査する役
  • 新しい技術や製品を研究、開発して次世代のビジネスに活かす役

というのが実態ではないでしょうか。確かに技術に関連する職なのかもしれませんが、これらの役職に期待されるのはいかに効率的なプログラムを設計し、開発効率を上げるか、部品の再利用性や拡張性を高めるといった、本来プログラマーとしての興味関心やスキルとはまったく異なるものであると思います。つまり、これらの技術系の役職を与えられても結局プログラマーのスキルとしての専門性が認められるわけでは決してないということで、私は正直なところこれらの技術職向けのキャリアパスにもあまり興味が持てません。新しい技術好きとプログラマーの興味とは重なるところはありますが、本質的にはまったく異なるものであるということはあまり理解されていないようです。開発生産性というのはSIerのビジネスモデルにとっては重要でないどころか、売り上げを減らす要因にもなるというところがあるのでしょう。失敗しない程度にそこそこの品質でプログラムを書ければよいという考え方にどうしてもなってしまうのではないでしょうか。この本で筆者が言っているところの初級〜中級職人くらいのスキルがあり、あとはコミュニケーション力がそこそこある方が使いやすいという発想が出てくるのは当然です。結局、筆者のように50歳を過ぎて本当の定年までPGとして食べていくためには、メーカーなどの大企業に転職するしかないのでしょうか?私としてはエンタープライズの世界で一生PGという話をあまり聞かないので、そのような生き方の参考にならないかと期待して読んだのですが、少しがっかりさせられたというのが正直なところです。
あと、「Google検索のみに頼るのはいけない」というのはその通りなのですが、最近ではRSSツイッターなどWebからいかに効率よく情報を仕入れるかというところは、プログラマーのスキルとしては、今後重要なのではと思いました。先日紹介したプログラマーのバービー人形のイメージにも重なりますが、アメリカの達人プログラマーだとスマートフォンや携帯PCなどの機器を使いこなしているGeekなイメージがあります。日本だとセキュリティ上の理由でこういった新しい情報機器を気軽に持ち歩くことが厳しく禁止されていることが多いというのも関係しているのでしょうか。私も含めて多くの職業プログラマーは世間のイメージとは違い意外にもこうした新しい情報機械を使いこなすのが苦手なイメージがあります。
私自身筆者のような生き方にあこがれる反面、やはり、正直な気持ちとしては年収などでもっと評価されたいという煩悩も断ち切れませんし、会社でもある程度ステータスが高ければ自分の考え方をもっと広められるのにと考えてしまいます。そういうところに、このまま一生現役でプログラマーを続けるか、管理職のような道を選択するのか、あるいは独立して自分で会社を興すべきなのかというところで迷いがあるのが正直なところです。私の家は浄土真宗門徒なのですが、厳しい修行をしなくても、他力本願の大乗仏教の教えのように多くのプログラマーが在家のまま幸せになれる、もっと安易な道はないものかとも思ってしまいます。