グルーポンのおせち事件を受けてSI業界が本当に教訓とすべきこと

共同購入サイトのグルーポンバードカフェというお店が販売したおせちの話題がネットで大いに盛り上がっています。
痛いニュース(ノ∀`) : グルーポンの割引で買ったおせち料理が酷すぎると話題に - ライブドアブログ
痛いニュース(ノ∀`) : グルーポンおせち騒動で、「バードカフェ」社長が辞任発表 - ライブドアブログ
ネット上のネタとしてだけでなく、最終的にNHKのニュースでも取り上げられたみたいです。
http://www.nhk.or.jp/news/html/20110103/t10013172511000.html
昔なら、こういう事件があっても食中毒事件でも起こさない限りここまで大きな話題になっていなかったかもしれませんが、正月早々、ネットの怖さを思い知らされた感じですね。以前なら消費者もこうした商品を購入してだまされたと思っても泣き寝入りで我慢してしまう人も多かったかもしれませんが、うわさが一気に広がって社長の辞任にまで追い込んでしまうとはまさにIT技術は偉大ですね。
ところで、一般の人はこの事件のニュースを聞いてグルーポンのビジネスモデルの問題とか、バードカフェの金儲け優先で品質を考えないという点に対してひどい話だと思うくらいなのでしょうけれど、我々のようにSI業界で働いている人にとっては寓話的というか、教訓としていろいろなことを考えさせられる事件だと思います。

  • もともと100人分の想定なのに500人分の注文を徹夜で処理(いわゆるデスマ)
  • 写真をみるといかにも臨時アルバイトのような素人がおせちを作っている
  • 衛生面を考えない作業場(古いPCの使用などPGに与えられる貧弱な開発環境と似る)
  • 品質より第一に売上・利益を優先
  • 品質面でもともと描いていた要件を満たせない

などの点考えるとどうしても我々の業務システム開発の仕事と比較して考えてしまわざるを得ないところがあります。実際、以下のような風刺もあり、ちょっと笑えないところもありますね。
顧客が説明した要件:おせち版 - REVの物置::Group::Grev - grevグループ
ただし、このおせち事件とシステム開発との間のアナロジーは完全でなく、結構違う部分もあるため解釈の上では注意が必要だと思います。まず第一に、SI業界は多重下請け構造になっており、そもそも非常に生産性が低い構造になっていることがあります。おせち事件の場合は単なる要件のスコープの見積もりミスですが、SI業界の場合は、間に何社も入ることからくるお金の面でのオーバーヘッドもありますし、システムの開発や保守運用の役にたたないような大量のドキュメントを作成する*1など実に無駄が多いです。だから、おせち事件のように単に半額で無理やり作ったから当然品質も下がるということではなくて、無駄なところにお金をかけているわりにはたいしたシステムが構築できないというところがあります。
また、第二に、多くの場合業務システムの品質が多少低くてもユーザー側*2は甘んじてそれを受け入れるしかないということが多いのではということがあります。一般ユーザーの目に触れるB2Cサイトやゲームなどは例外ですが、だいたい、SIerが作る社内システムの使い勝手などはそのようなものだと半ば諦められているところもあるのかもしれません。バグがないシステムというのは、おせちで言えば、腐っていないというような最低レベルの品質に相当するものではないかと思います。こうなるのは、多くの場合社内情報システムの開発ということ自体が企業秘密とされていて、絶対に外部に漏らすことが硬く禁止されているというところもありますね。これは情報システムの戦略性ということからしかたがないことですが。実際、職務経歴などでも自分の関与した仕事を明示的に書くことが契約上禁じられているケースがほとんどですし、仕事の話をする場合も「S社が」とか「M社の」とか隠語を使って(知らない人が聞くといったい何の話をしているのかと不思議に思うかと思いますが)会話をするのが常識とされています。だから、おせち事件と違ってうわさが世間に堂々と広まることもありません。
最後に、情報システムの場合、おせち料理と違って本当のシステムの品質というのがエンドユーザーに見えにくく正しく評価されにくいということがあります。どんなに内部構造がひどい作りになっていても、システムのレスポンスさえ確保できれば、おしゃれなUIでユーザーは簡単にだまされてしまうものです。ただし、プログラムの品質などは長い目でみた保守コストに確実に響いてきますから、実は見過ごすことができない問題なのですが。
このような問題が複雑に絡んでいることで、SI業界ではバードカフェのような仕事が長いこと続けられるし、臨時のバイト店員も高級料理店の板前も評価や待遇があまり変わらないといった他の業界ではとうてい考えられないようなことも既成事実としてまかり通ってしまうのだと思います。
ただし、頭数要員だけでこなせる仕事が今後もずっと取れると考えているSIerの仮説は間違っているでも指摘したように、最近はOSSクラウドなどの影響で社内システムもどんどんネット上のオープンな世界から調達されるようになってきているわけですし、いい加減にこうした状態がこの先何年も続くことはないのではないかと思います。アリとキリギリスの話ではありませんが、来るべき冬の時代に備えて、本物の技術力(プログラミング力だけでなくて提案力などプロの技術者としての仕事力も含む)をつける勉強をしておくことは決して無駄な努力にならないと思います。自らが作り出して深く関わっているIT技術によって「真面目に勉強する人が損をする」「正直者が馬鹿を見る」業界の体質はそろそろ終わりにならざるを得ないのではないでしょうか?

*1:これには異論もあるかと思いますが、端的に言ってしまえばプログラミングのできないSEの作業を無理に作り出しているような面もあります。特に何百人以上の大規模プロジェクトだと大人数での会議などの無駄も加わって、システムの開発に貢献しない人の割合が一層増えることになります。

*2:ここではユーザー企業の情報部門のSEではなくて業務システムを使って実業務を遂行するエンドユーザーのことを主に想定しています。